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うちの子たちが

好き勝手に

呟いています…

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 ピアネル

  avant...

 

 

この子は私の希望だ。やがて未来を救う光となるだろう。

 

 

 

そっと目を開けると、そこには緑で塗られた大地と、透き通るような青があった。眩い太陽の光が視界に入り、反射的に目を瞑る。そよ風が柔肌を微かにくすぐる。家屋は点々としており、奥には巨大な森が見える。人気がなく、長閑で美しい町。ここはどこだろう、どこか興味深そうに、または不安げに首を振る。ふと、誰かが手を差し出す。茶色染みた短い髪、蝶のような帽子を被った中性的な顔立ち。差し伸べられた手を小さな手で握り返す。手を握ったまま黙々と目的地へと向かう。あなたは誰?無邪気な声で聞かれる。もうすぐ着くよ。隣の人型はそう一言告げた。一つの家屋の前で足を止めると、幼気なその子もザッとコンクリートを引き摺る音を立てて静止した。鮮やかな木製の家からは生活感が漂い、外観はロッジを彷彿とさせる。

「さあ、今日からここが君の家だよ」

静かに告げノックをすると、扉がキシィと音を立てて手前に開いた。顔を出したのは、さらっと伸びた明るい灰色の髪、耳から後頭部にかけてまとめた髪を団子状に束ねた少女だった。制服に赤茶色のセーターを重ね着している。その少女は、「この子はだあれ?」と、今にも溶けそうな落ち着きのある声で訊ねた。

「あ、うん。前言ったが、本日からみんなに世話を頼みたいって言ってた子だよ」

「へえ…この子がねえ」

心底興味なさそうに、純粋な黒髪をポニーテールにした少女が、連れて来られた一人の子供を一瞥して呟く。ドアからさらに奥を覗き込むと、季節に合わずマフラーを巻いた少女が不思議そうにこちらを見ていた。毛布に包まり、彼女のテリトリーは防塞と化している。

「ねえ、あなたは何て名前なの?」

優しい声で、団子髪の少女は問いかけた。

「ええっと」

住民の前で、初めて赤い髪の少女は口を開いた。しかし、名前が思い出せないようで開きかけた口を小刻みに震わせている。いつだったか遠い昔、懐かしいあの人物が何度も何度も声に出していたような。時より少女を呼んでいたような。君の名前は――

 

――――せら…

 

セ…ラ――…

 

 

 

様々な記憶を搔い潜り、微かな笑顔を見せ小さな声で告げた。

「あたし、セイラだよ」

 

 

 

「じゃあ、その子を任せたよ」と言って家を後にする青年。早速家に上がったセイラと名乗った少女に対し、住民が一人一人自己紹介を始めた。

「セイラちゃんって言うんだよね。初めまして。ぼくはミユリっていいます。よろしくね~セイラちゃん」

「ラメルだよ。どうも」

「…ナノホ。君、何か変わった容姿してる」

それぞれの挨拶に返事をして、セイラは頭の中で再び整理する。団子髪の優しい少女がミユリ、ぶっきらぼうで少し怖い印象を持った人がラメル、小声で容姿に突っ込んだのがナノホ。そっちの方が明らかに変わった格好をしている、とも思ったが口には出さなかった。すると、ナノホが眉をひそめ、顔をぐいぐい近づけて何やら真剣な表情で迫ってきた。

「君、ヒーローとか好き?」

あまりに唐突で咄嗟に返事ができなかった。そもそもヒーローとは何か見当もつかなかった。

「ヒーローってなに」

「己を奮い立たせ、愛する人を死守するため、悪と立ち向かう正義の味方であり、時に敵の強さの前に敗れ、たじろぎ、身の弱さに落胆する。幾度となく身を焦がれるような屈辱と忸怩(じくじ)たる思いに苛まれ、自分の道の扉の鍵を手に入れたとき真の力を掌中にし、その概念は宇宙規模にまで肥大し」

何やらひとりでに語り出してしまった。「あーあ、これじゃ埒が明かないね」と溜息混じりにラメルが呟くと、時計の時針と分針が12の位置でぴったり重なった。

 

 

漫画随時連載予定